ケーススタディー:足関節障害からの復帰

おはようございます、アスレティックトレーナーの青柳陽祐です。

今回は足関節の障害から、競技復帰までの過程を追ったケーススタディーをご紹介します。
この文献は、医師による障害の明確な診断がない状況で(レントゲンを撮影しても明確な三角骨が写されていない)、注射や手術による治療をせず、保存療法のみで、競技復帰までこぎつけることができたケースを紹介しています。

今回の参考文献:
Stubblefield, Zevon, et al. “Acute posterior ankle pain in a female recreational soccer player.” (2013).
http://digitalcommons.fiu.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1107&context=sferc

この記事では時系列での経過と、大まかな活動復帰までの流れをまとめ、最後に僕の考えを書いています。

初診からリハビリテーション開始まで

Os_trigonum_1

赤丸の部分が三角骨になります http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/0/08/Os_trigonum_1.jpg より

*実際のレントゲン写真は文献リンク先にありますが、上のイメージのような三角骨は写っていません…

1.医師による初診の評価内容

患者:サッカー競技に参加する13歳女子(AM)

受傷起点:ボールをヘディングするためのジャンプから、左足関節が過底屈・外反した状態で着地をしてしまった。

自覚症状:着地直後に足関節後部に何かかが弾けるような感覚があり、受傷の8日後に患部の痛みが増したため、医師の診断を仰いだ

医師による評価:後脛骨筋・拇指屈筋の収縮時と患部付近への触診時に患部への疼痛が増した。足関節の前方・後方引き出しテストは共に陰性で、神経や血管の損傷は認められなかった。

レントゲンでの診断:成長期に起こる骨端骨折は認められなかったが、距骨後部にある三角骨の損傷の可能性が疑われた。

治療内容:ギプスによる3週間の患部固定、3週間後のレントゲンによる再診断と症状に改善が見られない場合、CTやMRIによる詳細な評価を用いる可能性がある

2.初診から3週間後

前回の評価から症状の改善が確認されたため、MRIやCTによる詳細な診断や患部への注射や手術による治療はしない方向になった。
ギプスによる固定は外されたが、ブーツ型の足関節可動域制限サポーターでさらに3週間患部を保護することになった。

3.初診から6週間後

さらに症状は改善し拇指屈筋の圧痛はなかったが、抵抗を加えた左足関節内反動作時に疼痛が増し、触診時に左後脛骨筋腱に圧痛が認められた。
患部は、エアキャスト(http://www.djoglobal.com/our-brands/aircast)を用いて保護をし、引き続きMRIや外科手術を用いない保存療法を継続することになった。

4.初診から7週間後

症状は大幅に改善したがAMの通う学校の服装制限により、在校時のエアキャストの着用が認められなかった。
以前、踵骨後部の触診による圧痛が認められ、患部の保護はSwede-Oサポーター(http://www.swedeo.com/ankleproducts.htm)に切り替えられた。
ここで医師から、週間の理学療法による左足関節のリハビリテーションが処方された。

5.初診から8週間後

AMは歩行時に突然、左足関節の内・外側部の激しい痛みを感じ、触診では左踵骨内側部および三角靭帯の圧痛が認められた。
徒手筋力テストでは、底屈、背屈、内反、外反共に4/5の評価であったが、左足関節(患側)の自動・他動関節可動域は検測に比べて10°少なく、不安定な地面でのバランステストでは、明らかに患側の方が姿勢維持に支障をきたしていた。

6.初診から12週間後

前回からの診察から約4週間リハビリテーションを続けた結果、左足関節の外反徒手筋力テストは、4+/5であった以外はすべて回復し、左右の可動域差も5°まで縮まった。
これ以後はAMの同意のもとで、短期目標(STG)と長期目標(LTG)を達成しながら活動への完全復帰を目指すことになった。

目標設定とリハビリテーション

目標の設定はやっぱり大切です!

目標の設定はやっぱり大切です!

STG(短期目標):リハビリテーション開始から3週間で達成

1.足関節の正常な可動域を確保し、動かした時に痛みが出ないようにする
立位での下腿三頭筋のストレッチとステーショナリーバイクを用い、エクササイズ後にアイスマッサージで痛みと腫脹を軽減させた

2.足関節の安定性と固有受容感覚を改善する
BAPSボード(http://www.rehaboutlet.com/BAPSboard_biomechanical_ankle_platform.htm)、フォームパッドとトランポリンの上でバランス感覚を養うエクササイズを行った

3.正常な歩行パターンを取り戻す
*詳しい記述はありませんでした…

4.足底や下腿の筋力を受傷前の状態に戻す
セラバンドを用いた足関節の運動とカーフレイズを行った

LTG(長期目標):開始から7週間で達成

1.足首を含めた身体の機能を受賞前の状態に戻す
スポーツの特異性を考慮したメニュー(軽いボールをキックする、トレッドミルでのランニング、レッグプレスマシン、サイドステップ、ジャンプからの着地練習、セラバンドを用いたシュートの練習、その他アジリティードリル)を行った。

2.患部の再受傷リスクを低減させる
受傷から6ヶ月後にはほぼ受傷前の状態に戻ったが、左足首を保護するためのアンクルブレース(装具)を装着するようAMに勧めた。

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三角骨は距骨の後方あり、大半は成長とともに距骨に癒合し距骨の後突起として残るのですが、時に癒合せずに余剰骨として残ってしまったり、癒合しても後突起が出っ張りすぎてしまうことがあります。

この状態だと、足関節捻挫をキッカケとして、”踵の後ろ辺り”に違和感を感じるようになるば場合があります。また何らかの怪我をしなくても、足関節が過度な底屈位になりやすい、サッカーのシュートやクラシックバレーのポアント(つま先立ち)を繰り返すことで、このケーススタディーの症状が現れやすいようです。

今回の文献では競技復帰までの過程に、高価なMRIやCTスキャンを使わなかった、医師からの確定診断(三角骨障害 or 後脛骨筋腱損傷)も無かった事が強調されていました。
患者の正直な気持ちとしては、あまりお金をかけず、短期間で治ることがいいと思うでしょう。
これを実現するには医師だけに頼らず、状況に合わせて他の専門家にケアをお願いすることがしやすい環境を整えることがとても重要な事だと思います。

僕は、ATが”患者と専門家の架け橋”になれる存在であるとかんがえています。
万能な専門家や治療法は存在しないので、相談に来た人が自分の持っている手段で最良のケアが出来ない場合には、適切な専門家に紹介したり、連携を取りながらケアができるようにしておくということです。

なお、今回のケーススタディーで紹介されていた方法は学校で習うようなかなり基本的なものですが、ここで一番大切なのは、”自分だったらこのようなことをする”と考えることです。
学生だったり、経験が浅い間はこのようなケーススタディーをたくさん読んだり、実習をとにかく積む、先輩の話を積極的に聞く・質問するなどして、考える習慣をつけておくべきだと思います。
”この過程がトレーナーとしてキャリアを積んで行く過程で生きるんだな…”と最近になってしみじみと思い始めました…

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